吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ―猫深夜残業 編―

2025年8月18日

吾輩は猫である ―猫深夜残業 編―

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、夜のオフィスに忍び込むのが日課である。

昼間は人間たちであふれていたこの空間も、
夜9時を過ぎれば別世界。
蛍光灯の明かりは半分、
キーボードの音だけがコツコツと響く。

吾輩は、あの部署のあの席へと向かう。
そこには、いつも同じ顔のサラリーマン。
眼鏡の奥の目は充血し、
冷えたコーヒーが三杯並んでいる。

書類の山、赤く染まったエクセル、
メールの「件名:至急」
それらに囲まれながら、
この人間はまるで何かを罰するように働いている。

吾輩は、プリンターの上から見下ろす。
「もう、帰っていいのに」とは言わない。
ただ、静かに見守る。
猫には、そういう夜の使者の役割もあるのだ。

0時を回ったころ、
人間はようやく椅子から腰を上げ、
伸びをしながらつぶやく。
「誰も褒めちゃくれないんだよなぁ」

吾輩は机の端からひと跳ねして、
その膝の上にちょこんと乗った。

びっくりした顔のあとに、
ふっと笑う表情。
ようやく、今日一日で見た初めての「素顔」である。

吾輩は猫である。
深夜のオフィスに現れる、
唯一の“お疲れさま”要員である。


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gonta

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