吾輩は猫である。名前はまだない。 湯は、一つではない。 山の湯。海の湯。熱い湯。ぬるい湯。 人間はこれを、温泉巡りと呼ぶ。 泉質が違えば、肌触りも違う。景色が違えば、心の動きも変わる。 同じ温泉でも、同じではない。 吾輩は思う。旅とは、目的地を増やすことではないと。 感じ方を増やすことだ。 湯に浸かり、風を受け、静かに空を見上げる。 何もしない時間が、少しずつ心を整える。 人間は、名湯を巡る。だが、本当に残るのは、誰と行ったか、どんな景色を見たか、その日の空気である。 湯は、疲れを流す。だが、思い出は流れ ...