吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 台風 編 ―

2025年9月10日

吾輩は猫である ― 台風 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。

昼までは静かだった。
だが、夕刻になると空の色が変わり、
風が唸るように吹きつけてきた。
木々は身をくねらせ、雨粒は斜めに走る。
町全体がざわつき、台風が近づいていることを告げていた。

吾輩は縁側から庭を見つめていた。
吹き飛ばされた落ち葉が舞い、
小さな枝が音を立てて転がる。
空気は重たく、湿り気を含んで胸にまとわりつく。

やがて、雨脚が一気に強まった。
屋根を叩く轟音が、
太鼓の連打のように響く。
吾輩は耳を伏せ、
体を小さく丸めて毛布に潜り込んだ。

しかし、不思議なことに――
その轟音の中に、心を揺さぶる律動を感じた。
自然の力は恐ろしい。
だが同時に、抗えぬほど大きな存在を前にすると、
なぜか心が静まっていくのだ。

夜半、風はさらに強まり、
窓の外は真っ白にかき消された。
吾輩はただ目を閉じ、
「過ぎ去るもの」と信じて耳を澄ませた。

そして、明け方。
静けさの中に鳥の声が戻った。
庭には枝葉が散らばっていたが、
空には薄い青が広がり始めていた。

吾輩は猫である。名はまだない。
台風は去った。
残されたのは、濡れた毛に残る一夜の記憶と、
自然に生かされているという実感であった。

嵐去り 濡れた毛づくろい 朝の鳥


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gonta

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