吾輩は猫である。名はまだない。
夜。
飼い主が寝静まったあと、
吾輩はそっと窓辺にのぼった。
雲ひとつない空に、
星が無数に散りばめられている。
まるで誰かが黒い布に
針で小さな穴をあけ、
そこから光をこぼしたようだ。
遠くの山も街も眠っている。
けれど空だけは、
何千年も昔から目を覚ましたままだ。
吾輩は思う。
あの光は、今も届き続けている。
何光年も前に消えた星の光が、
こうして吾輩の瞳に映るのだ。
――不思議なことだ。
小さな命が、宇宙の果てとつながっている。
流れ星がひとすじ、夜を切り裂いた。
願いごとをする間もなく消えたが、
吾輩はそっと喉を鳴らした。
願いなど言葉にせずとも、
この静かな瞬間こそ、
生きている証だからだ。
吾輩は猫である。名はまだない。
だがこの夜空の下で、
誰かの祈りと光が交わっている気がした。
星満ちて 眠りも光る 窓の縁