吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ―結婚記念日 編―

2025年11月23日

吾輩は猫である ―結婚記念日 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

今夜の食卓は、いつもと違う香りがした。
テーブルには花、グラスにはワイン。
飼い主たちは少し照れくさそうに笑っている。
「今日で十年目だね」――どうやら結婚記念日らしい。

吾輩はその足元に座り、
静かにしっぽを揺らした。
十年という歳月。
人にとっては長いかもしれぬが、
猫にとっては、いくつもの春と冬を重ねるほどの時だ。

思い返せば、喧嘩もあった。
泣き声の夜も、笑い声の朝も。
だが、どんなときも二人は同じ家に戻り、
同じカップでお茶を飲んでいた。
それが、愛というものなのだろう。

飼い主が吾輩の頭を撫でて言う。
「君も、家族になってくれてありがとう」
吾輩はごろごろと喉を鳴らした。
この家の歴史の中で、
吾輩もまた小さな証人なのだ。

窓の外では、春の雨が静かに降っている。
十年前も、きっと同じように降っていたのだろう。
そして十年後も、この音を聞いているに違いない。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、このぬくもりこそ、
共に生きるということだと思う。

春雨や ふたりと一匹 十の年


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gonta

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