吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 猫のマーキング 編―

2025年11月22日

吾輩は猫である ― 猫のマーキング 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

この世界には、目に見えぬ境界がある。
それを人は「敷地」と呼び、吾輩は「縄張り」と呼ぶ。
違うのは名前だけで、意味はそう変わらぬ。

吾輩は今日も、庭の石灯籠の前でしっぽを立てる。
これは単なる生理現象ではない。
――生きている証である。

飼い主は困った顔をして言う。
「またやったの? ダメよ」
ふむ、分かってはいる。
だが吾輩としても、
この家が“吾輩の城”であることを、
風に知らせねばならぬのだ。

夜の風に混じるのは、
他の猫たちのメッセージ。
「ここは通り道」「ここは恋の季節」
そんな暗号が、匂いとなって町をめぐる。
吾輩は鼻先でそれを読み取り、
世界の地図を描いていく。

人はサインを残すために文字を書くが、
吾輩は香りを残す。
形こそ違えど、
“ここにいた”という心は同じだ。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、風の中で己のにおいが混ざるとき、
この世界とつながっている実感がするのだ。

残り香に 生きた証を 風が運ぶ


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gonta

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