吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ―猫ドライブ 編―

2025年12月1日

吾輩は猫である ―猫ドライブ 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

ある休日、飼い主がキャリーケースを取り出した。
その瞬間、胸がざわつく。
――動物病院か?
――それとも爪切りの次は予防接種か?

ところが飼い主は満面の笑みで言った。
「今日はドライブだよ!」
ドライブ……?
どうやら、車で“どこかに行く”らしい。

出発してすぐ、
車はゴトゴト、景色はぐるぐる。
吾輩のひげが緊張でピンと立つ。
しかし飼い主の声は落ち着いていた。
「大丈夫、そばにいるからね」
その一言が、エンジンよりも温かかった。

やがて、揺れにも慣れてきた。
窓から差し込む風は、
家の中では嗅いだことのない匂いを運んでくる。
草の匂い、川の匂い、知らない街の匂い――
世界は想像よりずっと広い。

少し勇気を出して、
キャリーの隙間から前方をのぞくと、
遠くに大きな空が広がっていた。
車という“ゆりかご”の中で、
吾輩は初めて、“動く世界”を知った。

目的地に着くと、
飼い主がキャリーを開けて微笑んだ。
「また来ようね」
吾輩はそっと鼻先をくっつけた。
――悪くない。
世界を少しだけ好きになった。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日、初めて思った。
旅とは、揺れに耐えながら、
誰かと景色を共有することなのだと。

走る窓 風と匂いで 春ひらく


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gonta

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