吾輩は猫である。名はまだない。
今夜は、家の中がいつもと少し違う。
窓辺には小さな灯り、
部屋には甘い匂いが漂い、
外からは鈴の音が聞こえてくる。
――どうやら、クリスマスイブらしい。
飼い主は慌ただしくも楽しそうだ。
ケーキを切り、
チキンを温め、
ときどき吾輩の頭を撫でながら、
「もうすぐだよ」と独り言を言っている。
吾輩はツリーの下に座り、
揺れるオーナメントを眺めていた。
光は派手だが、どこか控えめで、
闇を押しのけるのではなく、
そっと寄り添っているように見える。
夜が深まると、飼い主はソファに腰を下ろし、
吾輩を呼んだ。
吾輩は当然のように膝に乗る。
外は寒い。
世界にはいろいろなことがあるだろう。
だが、この瞬間だけは、確かに平和だ。
飼い主が小さく言った。
「今年も、ありがとうね。」
吾輩は返事の代わりに、
静かに喉を鳴らした。
クリスマスイブとは、
誰かに贈る日であると同時に、
誰かがそばにいることを確かめる夜なのだろう。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが、このぬくもりの中で思う。
――今夜、奇跡はもう起きている。
灯ともり 膝に集まる 聖夜かな