【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―錠剤苦手な猫 編―

2026年1月14日

吾輩は猫である ―錠剤苦手な猫 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

白くて、小さくて、
においのしない敵が現れた。
――錠剤である。

飼い主は優しい声で言う。
「すぐ終わるよ。」
だが、その言葉を信じて
よい結果になった試しは少ない。

まずは、
おやつに混ぜる作戦。
吾輩は一口で見抜いた。
味ではない。
“違和感”である。
猫は、違和感の専門家だ。

次は、
喉の奥に入れる正攻法。
口を開けられ、
上を向かされる。
吾輩は全力で抵抗した。
四肢、しっぽ、視線、
すべてを使って拒否する。

「お願い……」
飼い主の声が、
だんだん必死になってくる。
吾輩は思った。
――これは勝ち負けではない。
信頼の綱引きなのだ。

三度目の挑戦。
今度は、
ゆっくり、
静かに、
呼吸を合わせてきた。
吾輩は観念した。
ほんの一瞬、
喉を開けた。

飲み込んだ。
……苦い。

だが、すぐに
撫でられ、
褒められ、
特別なおやつが出た。
錠剤は嫌いだ。
だが、
その後の時間は嫌いではない。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが学んだ。
薬とは、
敵の顔をした、
味のしない思いやりなのだ。

苦薬も 信じる手から 春となる


スポンサーリンク

  • この記事を書いた人

gonta

-【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編