【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―猫髭コレクター編―

2026年1月29日

吾輩は猫である ―猫髭コレクター編―

吾輩は猫である。名はまだない。

ある日、飼い主が床に落ちている細い白いものを拾い、
そっと息を止めた。
「……あった。」
それは、吾輩の髭である。

猫の髭は、
ただの毛ではない。
距離を測り、
風を読み、
世界の輪郭を知るための道具だ。
それを落とすということは、
ほんの少し成長した証でもある。

飼い主はその髭を、
小さな箱に入れた。
「捨てられないんだよね。」
そう言って、
満足そうに頷く。

箱の中には、
すでに何本かの髭が並んでいる。
長さも、
曲がり具合も、
色も違う。
――まるで、
吾輩の人生の断片である。

吾輩は思う。
なぜ人は、
猫の抜けた髭を集めるのか。
答えは簡単だ。
それが“無事に過ぎた時間”の証だからだ。

病気でもなく、
事故でもなく、
自然に抜けた一本。
それは、
今日も普通に暮らせたという
小さな報告書なのだ。

飼い主は時々、
箱を開けて眺める。
「この頃は、まだ小さかったね。」
吾輩はその横で、
しっぽを揺らす。
――記憶は、
人と猫で、
こうして共有されていく。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが知っている。
集められているのは髭ではない。
共に過ごした、
静かな日々なのだ。

髭一本 今日も無事だと 箱に眠る


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gonta

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