吾輩は猫である。名はまだない。
吾輩の尻尾は、まっすぐではない。
途中で、くい、と折れ、
小さな鍵のような形をしている。
人はそれを「かぎ尻尾」と呼ぶ。
子猫の頃、
それを見て心配する人もいた。
「大丈夫? 曲がってるよ。」
だが、吾輩にとっては
最初からこの形だった。
不自由も、違和感もない。
むしろ、この尻尾は役に立つ。
狭い場所で体の向きを伝え、
気分を少しだけ強く表現し、
ときには、
人の指を引っかけて引き留める。
昔から言われているらしい。
かぎ尻尾の猫は、
幸運を引っかけてくる、と。
吾輩は信じても信じなくてもよい。
だが確かに、
この家には笑い声が多い。
まっすぐでなくてもいい。
曲がっていても、
ちゃんとバランスは取れる。
大切なのは、
どこへ伸びているかだ。
飼い主が言う。
「その尻尾、かわいいね。」
吾輩は少しだけ誇らしく、
しっぽの先を揺らした。
吾輩は猫である。名はまだない。
だがこのかぎ尻尾で、
今日も小さな幸せを
そっと引っかけている。
曲がり尾で 福を手繰り寄せ 昼寝かな