吾輩は猫である。名はまだない。
人間はしきりに時計を見る。
進んでいるか、遅れているか、
間に合うか、間に合わぬか。
円盤の上を回る針に、
気分まで預けているようだ。
吾輩は時計を見ない。
正確な時刻を知らずとも、
腹が減れば起き、
眠くなれば眠る。
それで一日が、きちんと終わる。
時計は便利である。
だが、便利なものほど、
人を追い立てる。
人は時間を使っているつもりで、
いつの間にか
時間に使われている。
吾輩は窓辺で丸くなり、
光の角度で午後を知る。
時計より遅いが、
間違えない。
考えるとは、
急がぬことだ。
生きるとは、
測らぬことだ。
人は時計を信じ、
吾輩は今日を信じる。
それだけの違いである。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが確信している。
理性を失わぬために、
人はときどき
猫の時間を思い出すべきだ。
刻む針
忘れさせる猫
思索とは昼寝の中にあり