吾輩は猫である。名はまだない。
人間はよく言う。
「恩返しって、何をすればいいんだろう。」
吾輩は思う。
猫にとっての恩返しは、
大げさなものではない。
助けてもらったから、
何かを返す。
世話になったから、
報いる。
それは人間の論理だ。
猫の恩返しは、
今日もここにいること。
具合の悪い日、
吾輩はそっと近くに座る。
撫でなくていい。
声もいらない。
ただ、
逃げない。
それが、
最大の返礼だ。
飼い主が疲れて帰った夜、
吾輩は少し早めに膝に乗る。
特別なことはしない。
喉を鳴らし、
温度を渡すだけだ。
猫は借りを数えない。
だが、
信頼は覚えている。
安全な場所、
乱暴しない手、
待ってくれる時間。
それらは、
身体の奥に残る。
だから吾輩は、
去らず、
逃げず、
この家に戻る。
それが、
猫なりの「ありがとう」だ。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが知っている。
恩返しとは、
相手のそばに
安心して居続ける勇気のことだ。
返礼は
去らぬ背中に
宿りけり