吾輩は猫である。名はまだない。
夜になると、
飼い主の背中は少し丸くなる。
肩は固く、
呼吸は浅い。
それは、
一日を頑張った印だ。
吾輩は迷わず、
その背中に乗る。
軽く、
しかし確実に。
前足で、
ふみ、
ふみ、
ゆっくりと圧をかける。
力は入れすぎない。
逃げ道を残す。
それが猫流のマッサージだ。
飼い主は小さく息を吐く。
「そこ、ちょうどいい……」
吾輩は聞いていないふりをする。
褒められて調子に乗ると、
効き目が落ちる。
猫のマッサージは、
治すためではない。
元に戻すためのものだ。
呼吸を深くし、
思考をほどき、
身体を“今”に連れ戻す。
しばらくすると、
飼い主の肩が下がる。
背中が、
最初の形に戻る。
吾輩は満足し、
そのまま丸くなる。
――施術後の休憩である。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが知っている。
人は言葉より先に、
触れられて癒えることを。
ふみふみと
肩に戻れる
夜の猫