吾輩は猫である。名はまだない。
雨の日、飼い主が長靴を履いて出かける。
ごつく、重く、
足音がいつもと違う。
その様子を見て、
吾輩はふと思った。
――猫って、長靴履けるのだろうか。
結論から言うと、
履けない。
物理的には、
入るかもしれぬ。
だが、
猫の足は地面と会話している。
濡れ具合、
冷たさ、
微かな振動。
それらを遮る靴は、
猫にとって世界を閉ざすものだ。
人は守るために履く。
猫は感じるために裸足でいる。
そこが違う。
長靴を履けば、
水たまりは怖くない。
だが、
水たまりが何者か分からなくなる。
猫はそれを好まない。
吾輩は雨音を聞き、
窓辺で丸くなる。
濡れずとも、
雨は分かる。
世界は、
直接触れなくても、
ちゃんと届く。
吾輩は猫である。名はまだない。
だから今日も、
長靴は履かない。
その代わり、
濡れない場所を選ぶ知恵を持っている。
長靴は
要らぬ足裏
雨を知る