吾輩は猫である。名はまだない。
節分の日、
家の中が少し騒がしい。
豆の入った袋、
赤い面、
そして決まり文句。
「鬼は外、福は内!」
吾輩は思う。
では、猫はどこだ。
答えは簡単だ。
猫は内である。
最初から内にいて、
出る予定もない。
鬼というのは、
角や牙の話ではない。
怒りすぎる心、
追い詰めすぎる言葉、
眠る時間を削る焦り。
そういうものが、
家の中に入り込むと、
居心地が悪くなる。
だから豆を投げる。
力任せではなく、
区切りとして。
「ここまでにしよう」と
空気に言い聞かせるために。
吾輩は豆を追わない。
転がる音を聞き、
距離を測り、
危なくないと分かってから、
そっと眺めるだけだ。
猫は儀式に参加せず、
意味だけを受け取る。
飼い主が言う。
「今年も元気でいようね。」
吾輩はしっぽを一度、揺らした。
それが合図である。
余計なものは外へ。
必要な温度だけを内へ。
吾輩は猫である。名はまだない。
だがこの家で、
居心地のよさを守る役目は、
引き受けている。
**豆の音
追わず守りて
猫は内