吾輩は猫である。名はまだない。
氷の上は、
よく滑る。
それだけで、
十分に警戒すべき場所だ。
人間は、
刃のついた靴で氷に立ち、
音楽に合わせて舞う。
回り、跳び、
点数をつけられる。
人間はこれを、
フィギュアスケートと呼ぶ。
吾輩は思う。
猫がやったら、
どうなるだろうかと。
立つことはできる。
滑ることも、
理屈の上では可能だ。
体は柔らかく、
回転軸も安定している。
スピンなど、
得意分野かもしれぬ。
だが、
問題は着地である。
猫は、
失敗する跳躍をしない。
成功率の低いジャンプは、
最初から選ばぬ。
四回転?
理由がない。
氷上で最も難しい技は、
高く跳ぶことではない。
転ばずに、
最後まで滑り切ることだ。
猫の演技は、
静かだ。
大きな跳躍はなく、
小さな移動が美しい。
加点は少ないが、
減点もない。
拍手は起きにくい。
だが、
氷に残る線は、
無駄がない。
吾輩は猫である。
メダルは狙わぬ。
だが、
最後まで立っている。
転ばぬ演技こそ、
最も完成度が高いと、
猫は知っている。
跳ばぬとも
立ち去る姿
金メダル