吾輩は猫である。名はまだない。
街に、
火がやってきた。
特別な火で、
特別に守られ、
特別に走らされる。
人間はこれを、
聖火リレーと呼ぶ。
道は整えられ、
声は揃えられ、
時間は秒単位で管理される。
火は揺れるが、
計画は揺れぬ。
吾輩は、
少し離れた縁石の上から、
それを見る。
走る必要はない。
火は、
こちらまで届いている。
火とは、
渡すものではない。
見失わぬものだ。
人は、
次へ次へと繋ぐ。
落としてはならぬと、
強く握る。
だが、
強く握るほど、
熱さは増す。
猫なら、
持たぬ。
近づきすぎず、
遠ざかりすぎず、
ただ、
消えぬ距離を保つ。
やがて、
走者は去り、
拍手も流れていく。
残るのは、
温もりの記憶と、
元の夜道だ。
吾輩は猫である。
火は運ばぬ。
だが、
灯りの意味は知っている。
続くものとは、
急がずとも、
消えぬ心のことだ。
走らずに
火を見失わず
夜は更け