吾輩は猫である。
名前はまだない。
三月になると、
人間は少し考え込む。
机の上には、
白い箱。
リボンは整い、
中身は甘い。
人間はこれを、
ホワイトデーと呼ぶ。
返す日らしい。
もらったものに、
応える。
それは、
礼でもあり、
照れ隠しでもある。
猫には、
返礼の習慣はない。
撫でられれば、
目を細める。
それだけで
十分だ。
だが人間は、
形を整える。
菓子に気持ちを包み、
箱に距離を収める。
大きすぎても、
小さすぎても、
意味が変わる。
人間の世界は、
なかなか繊細だ。
渡すとき、
言葉は短い。
受け取るとき、
笑顔は少しぎこちない。
それでいい。
気持ちは、
完全に説明されると
少し軽くなる。
吾輩は猫である。
菓子は食べぬ。
だが、
返そうとする心は知っている。
人の関係とは、
小さな返事を
積み重ねることらしい。
甘き日も
返す心に
春淡し