吾輩は猫である。
名前はまだない。
部屋に、
新しい気配が増えた。
人間は嬉しそうに、
一枚の板の前で立ち止まる。
そこには、
まいやんと、
犬がいる。
……犬である。
動かぬ。
鳴かぬ。
ただ、
そこにいる。
人間はこれを、
犬スタンドと呼ぶらしい。
妙だ。
撫でる。
笑う。
写真を撮る。
そのたびに、
表情がやわらぐ。
吾輩は、
少し離れた場所に座る。
近づく理由はあるが、
近づかぬ理由もある。
猫は、
比べぬ。
だが、
感じはする。
あの笑顔が、
自分に向いた時と、
少し似ていることを。
犬は、
寄り添う存在。
猫は、
寄り添わせる存在。
どちらも、
違う形で満たす。
だが、
同じ場所に置かれると、
少しだけ、
心が動く。
吾輩は、
そっと伸びをする。
わざとらしくなく、
しかし、
気づく程度に。
人間は、
ふとこちらを見る。
そして、
少しだけ笑う。
それでよい。
吾輩は猫である。
競わぬ。
だが、
忘れられもせぬ。
ヤキモチとは、
愛情がまだそこにある
証なのだ。
横目して
少し近づく
春の猫