吾輩は猫である。名前はまだない。
街が、急に騒がしくなった。
壁という壁に顔が貼られ、
声という声が、少しずつ大きくなる。
人間はこれを、
総選挙と呼ぶらしい。
皆、前へ出たがる。
真ん中に立ちたがる。
センターとは、
光の集まる場所だと信じているのだ。
約束は多く、
言葉は軽く、
語尾はやけに断定的である。
未来は、もう決まったかのように語られる。
吾輩は、少し離れた場所でそれを見ている。
争っているのは、
立ち位置であって、
責任ではないように思えたからだ。
本来、中心とは、
声を張る場所ではない。
周囲が動いても、
揺れぬ点である。
目立つ者が選ばれるのではない。
目立たぬ間に、
耐えてきた者が残る。
叫ぶ猫も、
指差す猫も、
皆、必死である。
それ自体は、悪くない。
だが、
選ばれた後の静けさを、
誰が引き受けるのか。
その問いだけが、
夜風の中に残っていた。
吾輩は猫である。
センターには立たぬ。
だが、外れもしない。
騒ぎが去ったあとも、
同じ場所に座っているつもりだ。
真ん中へ
集まる声ほど
軽くなる