吾輩は猫である。名はまだない。
元日の朝、
飼い主がマフラーを巻きながら言った。
「初詣、行くよ。」
どうやら人間界では、
新年の始まりに神社へ挨拶をするらしい。
吾輩はキャリーに入れられ、
すこし不満げに耳を倒した。
だが、外に出ると冷たい空気が心地よい。
冬の匂いは、なぜこんなにも澄んでいるのだろう。
神社に着くと、
参道には人が並び、
甘酒の香りがほのかに漂っていた。
吾輩はキャリーから半分顔を出し、
境内の景色を見渡した。
鳥居の向こうの空は青く、
風に揺れる鈴の音が静かに響く。
人々が手を合わせ、
ひとつずつ願いを置いていく姿は、
どこか猫の“ひなたを探す姿”に似ている。
いよいよ我々の番が来た。
飼い主が賽銭を入れ、
深く頭をさげた。
吾輩は横でそっと目を閉じた。
願いはただひとつ。
――来年も、今日のように穏やかでありますように。
鐘の音が通り抜けると、
飼い主は吾輩の頭を撫でて言った。
「元気で、長生きしようね。」
その言葉が、
お守りよりも強いお守りになる。
帰り道、吾輩は小さく伸びをした。
寒いけれど、心は温かい。
初詣とは、
新しい年に最初のやさしさを置く儀式なのだろう。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日、
願うことの静けさを知った。
初詣 願いの先に 膝の春