吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 備蓄米篇 ―

2025年6月3日

吾輩は猫である ― 備蓄米篇 ―

吾輩は猫である。名はまだない。
台所の下の奥深く――その暗がりに、静かに眠る白い袋がある。
「備蓄米」と書かれたその袋は、飼い主が災害用にと買い込んだものらしい。

いつかの地震、どこかの停電。ニュースに触発されては、人間はすぐに米や水を蓄える。だが時間が経てば、安心だけを残して中身のことは忘れてしまう。
吾輩は知っている。3年ものの備蓄米は、もう賞味期限を過ぎている。

それでも捨てられずに棚の奥――まるで、人間の「心配だけして何もしない」性分を象徴しているようだ。

「非常時のために」――立派な言葉だ。だが日々の食卓には出てこず、いつも「今度炊こう」と言われて終わる。
その間に吾輩のカリカリは変わり、パッケージもリニューアルされた。

人間は備えるが、活かさぬ。
学ぶが、忘れる。
災害は定期的に来るのに、危機感の消費期限はもっと短いようだ。

それでも、ある日突然の雨や揺れが来たとき、あの袋が「ここにいる」と声を上げるかもしれぬ。
吾輩なら、そういうときのためにひげを張って、風を読む。

備えるは 使う覚悟と 並びたし

今日も棚の奥で眠る備蓄米に、吾輩はそっとつぶやく。
「おまえも、早う炊かれてこそ、本望やろ?」


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gonta

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