吾輩は猫である。
名前はまだない。
朝の駐車場は、
まだ空気が冷たい。
車は静かに並び、
金属は夜の温度を残している。
人間は、
鍵を押し、
エンジンをかける前に、
ふと立ち止まる。
「ボンネットに、いないかな。」
その一言に、
少し救われる。
猫は、
暖かい場所を知っている。
冷えた体にとって、
エンジンの余熱は魅力だ。
暗く、
狭く、
静かな場所は、
安心にも似ている。
だが、
安心は、
時に危うい。
ボンネットを軽く叩き、
下を覗き、
タイヤの周りを確かめる。
ほんの数秒の確認が、
命を分ける。
吾輩は、
少し離れたところからそれを見る。
人の無意識が、
少し意識に変わる瞬間だ。
車は便利で、
速く、
遠くへ行ける。
だが、
動き出す前の配慮こそ、
本当の運転である。
やがて、
エンジンはかかる。
何もいないことを確かめて。
朝は、
静かに進む。
吾輩は猫である。
車は運転せぬ。
だが、
動き出す前の一拍が、
どれほど大切かを知っている。
気づくことは、
最大のやさしさなのだ。
叩く音
命ひとつを
守りけり