吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 猫ホテル篇 ―

2025年5月31日

吾輩は猫である ― 猫ホテル篇 ―

吾輩は猫である。名はまだないが、今は見知らぬ匂いのする部屋にいる。
そう、ここは「猫ホテル」なる場所らしい。飼い主が旅行とやらに出かけるとかで、吾輩をここに預けたのだ。

「快適な個室」「24時間空調完備」「ストレスフリー」――人間が謳う文句はどれも麗しい。
だが、吾輩に言わせれば、これはまごうことなき監禁である。

まず、知らぬ猫の声が聞こえる。薄い壁の向こうでは、三毛の女王が騒いでおるし、斜め下の黒猫は夜な夜な「出せ」と鳴く。
スタッフとやらは笑顔だが、吾輩のしっぽの動きの意味を理解せぬ。カリカリは銘柄が違うし、毛布も吾輩の匂いがついておらぬ。

それでも、人間は「いいホテルだった?」と帰ってくる。
まったく、何をもって「いい」とするのか。
家のひなた、使い古したソファ、そして飼い主のひざ――それこそが真の"猫宿"ではないのか。

だが、飼い主の顔を見た吾輩は、つい「にゃあ」と鳴いてしまった。
安心とは、声より先に体が覚えているらしい。

旅も良い されど我が家の 日向ぼこ

次に旅に出る時は、どうか…どうか、吾輩も連れてゆくがよい。
いや、やはり――留守番のソファが恋しいかもしれぬ。

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gonta

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