【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―バレンタイン 編―

2026年2月14日

吾輩は猫である ―バレンタイン 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。

その日は、
朝から少し落ち着かない。
包み紙の音が増え、
人の動きが、
いつもより慎重になる。

人間は、
この日を
バレンタインと呼ぶ。

甘いものが主役のはずだが、
本当に甘いのは、
渡すまでの沈黙である。
言葉は少なく、
視線は長い。

机の上には、
いくつかの箱。
大きさも、
重さも、
同じではない。
そこに、
人の迷いが見える。

吾輩は、
その前を横切る。
誰にも止められぬ。
ただ、
一つだけ確かなことがある。

チョコは、
気持ちの代わりではない。
気持ちが、
行き場を失わぬための、
仮の器である。

渡される者も、
渡せぬ者も、
皆、少し静かになる。
それでよい。
騒ぐ日ではない。

夜になり、
包みは減り、
部屋は元の温度に戻る。
残った甘さは、
翌日へ持ち越される。

吾輩は猫である。
チョコは食べぬ。
だが、
人の気配が甘くなる日を、
嫌いではない。
静かな想いほど、
長く残ると知っている。

渡せずも
甘さは夜に
残りけり



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gonta

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