吾輩は猫である。名はまだない。
だが、飼い主のブランケットを見れば、
ふみたくなる衝動がこみあげてくる。
ふみふみ。
前足を交互に出して、ぎゅっ、ぎゅっ。
毛布が柔らかいと、つい本能が目を覚ます。
飼い主は言う。
「出た、“ふみふみ”タイムね。赤ちゃんみたい」
笑われようとも、これは吾輩の無言の祈りである。
あたたかい場所、
やわらかな匂い、
母の胸を探すような仕草。
――けれど、今この瞬間、
吾輩がふみふみしているのは、飼い主のひざの上だ。
忘れても 本能だけが 覚えてる
ふみふみは甘えだけじゃない。
信頼の証であり、安心の灯火だ。
警戒している相手には、こんなふうに身体を預けられぬ。
ときどき爪が出て、「いててっ」と言われるが、
それでも逃げずに撫でてくれる。
この人間を選んでよかった――そう思える時に、
吾輩の足が自然と動き出す。
ふみながら、
吾輩は一つひとつ、感謝を押し込んでいるのかもしれない。
「ここが好き」「安心してる」「今日もありがとう」
飼い主がそっと言った。
「癒されるなあ、あんたに」
ふみふみは、きっと癒し合いだ。
猫も、人も。