吾輩は猫である。名前はまだない。
吾輩は猫である。
名前はまだない。
街が、急に一つの言葉を繰り返し始めた。
旗が増え、
音が大きくなり、
人の目が、遠くを向く。
人間はこれを、
五輪と呼ぶ。
競い、
測り、
並べ、
順位をつける。
世界は一瞬、
一直線になる。
人は言う。
速い者が偉く、
高い者が強く、
多く獲る者が称えられるのだと。
吾輩は、
少し離れた場所でそれを見る。
猫にとって、
速さは生き延びる術であり、
誇るものではない。
跳ぶのも、
登るのも、
本来は静かな行為だ。
拍手があるから、
するわけではない。
表彰台の上では、
笑顔が整えられ、
下では、
言葉にされぬ重さが残る。
勝ち負けとは、
終わった後に、
一人で引き受けるものらしい。
吾輩は思う。
本当に世界をつなぐのは、
同時に見ることではなく、
同じ静けさを共有することではないかと。
夜、
競技が終わり、
街が少し静かになる。
残るのは、
記録よりも、
疲れた体と、
明日の朝だ。
吾輩は猫である。
メダルはいらぬ。
だが、
続けてきた日々には、
等しく価値があると知っている。
猫五輪とは、
誰にも見せぬ努力が、
各々の場所で完走することだ。
順位なく
走りきった日
星が出る