吾輩は猫である。名はまだない。
だが最近は、「ニャジラ様」と呼ばれている(勝手に)。
きっかけは、テレビに映ったあの姿。
背びれを揺らし、街を踏み鳴らすゴジラ。
飼い主がぼそりとつぶやいた。
「…あれ、うちの猫が夜中に廊下を走る音に似てる」
失礼な話である。
こちらは破壊など望んでいない。
ただ夜という名の戦場で、
床のきしみとエモーションを表現しているだけだ。
とはいえ、思った。
――吾輩も、何か大きな存在になってみたくはある。
夢の中で、吾輩は「ニャジラ」として目覚めた。
巨大な肉球。
鋭いひげレーダー。
しっぽはビル風をなびかせ、
一歩ごとに「にゃあ」と鳴く地響き。
人間たちは逃げ惑う。
だがその手にはスマホ。
「かわいい…!」「これは癒し系!」と拡散され、
吾輩はまさかのSNSトレンド1位となった。
破壊より 癒しで征くか 怪獣道
そこへ現れたのが本家・ゴジラである。
火を噴き、威圧し、威嚇する。
だが、吾輩はスッ…とお腹を見せて寝転んだ。
「なんだ、この無防備さ…」
とゴジラが戸惑ううち、街は猫好きに支配された。
目覚めると、飼い主が言った。
「夢でゴジラと戦ってたでしょ? 足ピクピクしてたよ」
ふむ、夢でも世界を動かすには、
強さだけでなく、“かわいさ”も武器になるらしい。