【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―猫箱根マラソン 編―

2026年1月3日

吾輩は猫である ―猫箱根マラソン 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

正月の朝、
飼い主がテレビにかじりついて叫んでいた。
「箱根駅伝、もうすぐ山上りだぞ!」
どうやら、人間界では新年早々に長距離を走る儀式があるらしい。

吾輩は思った。
――猫なら、もっと優雅に走れるのでは?

そして気づけば、
山の空気の中にいた。
どういうわけか吾輩はエントリーされていた。
胸にはゼッケン「22-にゃん」。
周囲のランナーが驚いた顔で吾輩を見ている。

スタートの号砲が鳴った。
吾輩は軽やかに跳び出した。
最初は調子が良かった。
足裏の肉球が地面を弾み、
風切り音が耳をくすぐる。

しかし、山の斜度が増すにつれ、
ランナーたちの顔つきも変わっていく。
「ここからが本番だ……!」
どうやら、“山の神”という存在が降臨する区間らしい。

吾輩は立ち止まってしまった。
いや、景色が良すぎたのである。
相模湾の青がきらめき、
冬の空が澄んでいた。
こんな美しい眺めを背に走り抜けていくなど、
猫として許容できぬ。

そこへ、沿道の観客が声を上げた。
「がんばれ猫ちゃん! 無理しないでいいよ〜!」
吾輩はうなずいた。
無理はしない。それが健康の秘訣。

結局、吾輩は歩き、座り、
途中で落ち葉を追いかけ、
箱根神社で休憩し、
温泉宿の玄関先で名物のおばあちゃんに撫でられ、
気づけば「徒歩完走」を果たしていた。

飼い主は言った。
「タイムは最下位だけど……なんか幸せそうだね。」
吾輩は胸を張って答えた。
――走る速度より、楽しむ速度が大事なのだ。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが箱根の風に触れて知った。
走ることは競争ではなく、
“今を味わう旅路”なのだと。

山の風 速さよりまず ひなたかな


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gonta

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