吾輩は猫である。名はまだない。
正月の夜は静かだ。
テレビの音も早く消え、
家の中には、こたつの余熱と眠気だけが残っている。
飼い主は「いい初夢を見るんだよ」と言って灯りを落とした。
吾輩は丸くなり、
ゆっくりと夢の中へ滑り込んだ。
夢の中で吾輩は、
大きなひなたにいた。
空は高く、
風は冷たくなく、
地面はちょうどいい温度だ。
遠くから、
富士山のような形の爪とぎが見え、
そのそばには立派な鷹が羽を休め、
足元には大きなナスが転がっていた。
――人間で言うところの、
縁起の良い夢らしい。
だが吾輩は、
それらに特別な興味は持たなかった。
気になったのは、
ひなたの真ん中に置かれた、
いつもの毛布である。
吾輩はそこに座り、
喉を鳴らした。
すると、
夢の中の時間がゆっくりと流れ出した。
急ぐ必要も、
競う必要もない。
やがて、
飼い主の寝息が遠くから聞こえ、
吾輩はふっと目を覚ました。
まだ夜だ。
だが、胸の奥が少し明るい。
初夢とは、
未来を占うものだという。
ならば今年は、
この静けさが続く一年なのだろう。
それ以上の吉兆は、
猫には必要ない。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが、この初夢、
たいそう気に入った。
初夢や ひなたの中で 年ひらく