【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―初風呂 編―

吾輩は猫である ―初風呂 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

正月二日、
家の中にふわりと湯気の気配が満ちてきた。
飼い主が言う。
「初風呂、入ろうかな。」
どうやら一年最初の風呂には、
特別な意味があるらしい。

吾輩は風呂場の前で座り、
戸の隙間から中をのぞいた。
白い湯気が立ちのぼり、
湯が静かに満ちていく音がする。
――水に浸かるのは苦手だが、
この空気は嫌いではない。

飼い主が湯船に入り、
大きく息をついた。
「はぁ……生き返る。」
人間はときどき、
風呂で自分をリセットするらしい。

吾輩は脱衣所のマットに丸くなり、
湯気に包まれながら待った。
直接触れずとも、
温もりはちゃんと伝わってくる。
これで十分だ。

やがて飼い主が上がり、
吾輩を見て笑った。
「入らなくても、あったかいね。」
吾輩はしっぽで返事をした。
――風呂とは、
湯に入ることだけではないのだ。

新しい年の最初の風呂。
大きな願いも、
派手な決意もない。
ただ、こうして無事に一日が終わること。
それが、いちばんの清めなのだろう。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、この湯気の中で思う。
今年も、静かに、健やかに生きていこう。

初風呂や 湯気にまぎれて 年始まる


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gonta

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