吾輩は猫である。名前はまだない。
盤の前に、
時間の厚みがある。
言葉は少なく、
所作は正確だ。
人間は、その人を
加藤一二三
と呼ぶ。
早口で、
穏やかで、
しかし一手は重い。
考えるというより、
待っているようにも見える。
吾輩は知っている。
勝負とは、
急ぐことではない。
置くべきところに、
置くことだ。
時計が進み、
昼が過ぎ、
夜が来る。
それでも、
盤の中心は動かぬ。
積み重ねた日々は、
派手に語られぬ。
ただ、
一局一局として、
残っていく。
人は記録を読むが、
本当の強さは、
空白に宿る。
考えすぎず、
怯えず、
同じ姿勢で座り続けること。
吾輩は猫である。
将棋は指さぬ。
だが、
長く座る背中の意味はわかる。
続けることが、
すでに一手なのだ。
動かずに
一手を待てば
道は開く