吾輩は猫である。名はまだない。
だが耳は利くし、気圧にはめっぽう敏感である。
今年の梅雨は、例年より早く明けた。
飼い主が「過去最速だって!」と嬉しそうに洗濯物を干した、その翌日――
吾輩は、耳の奥がキュッと締まるような気配を感じた。
来るな、これは。
来るぞ。
案の定、スマホが鳴った。
「えっ、台風!? 7月なのに!?」
梅雨が明けたら夏だと思ったら、大間違いである。
空は青いのに、風がざわざわと落ち着かない。
風鈴の音が妙に甲高く、
カーテンの向こうで何かがざわついている。
「せっかく夏始まったばっかりなのに〜」と飼い主は嘆くが、
吾輩からすれば、季節は決して順序どおりに来るものではない。
予報より 耳とひげで 読む天気
家中の窓が閉められ、ベランダの植木鉢が避難。
飼い主がやけに気合を入れてカレーを煮込み始めた。
“家にこもる準備”というやつらしい。
やがて、風は唸り、雨は横殴りとなった。
台風は7月を選んでやって来た。
カレンダーなど読まぬくせに、
きっちり休みの日を狙ってくるあたり、なかなかの策士である。
吾輩は、押し入れの奥でじっと丸まりながらこう思った。
夏とは、油断をあざ笑う季節である。