吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日、ポストに届いていた一通の封筒を見て、人間たちはざわめいた。
「まさか、おまえに召集令状…?」
冗談ではない。
もし猫に兵役義務などというものが課されたら、世界は一変する。
まず、朝の点呼に集まらぬ。
なにせ吾輩は朝日と共に起きるが、眠くなったらその場で寝る。
起床ラッパより、腹時計のほうが正確である。
訓練? 駆け足?
それならカラスを追い回すほうが100倍マシだ。
命令には従わぬ。
それは猫の矜持である。
「伏せ」と言われて伏せる猫など、この地球にはおるまい。
あえて言えば、気が向けば“してやる”こともある。が、それは命令とは別だ。
とはいえ、猫部隊ができたなら――
・夜間の偵察には強い(暗視能力)
・音のしない移動が得意(忍び足)
・突発的なジャンプで敵を翻弄(気まぐれ)
意外と役に立つかもしれぬ。
だが、誰が制服を着せるのだ。
それを着るくらいなら、吾輩は洗濯ネットに入るほうを選ぶ。
自由とは 毛並み一筋 乱さずに
兵役は、確かに社会の仕組みかもしれぬ。
だが吾輩は、どんな命令よりも、日だまりの指示に従って今日も丸くなる。