吾輩は猫である。名はまだない。
若いころは、
高いところに登り、
無駄に走り、
何にでも首を突っ込んでいた。
だが今は違う。
登る場所は選び、
走る理由があるときだけ走る。
毛並みは少し落ち着き、
動きは静かになった。
だが、その分、
場の空気がよく見える。
これが“いけおじ”というものらしい。
吾輩はいちいち主張しない。
鳴かずとも、
視線ひとつで伝わる。
甘えるときも、
全面には出ない。
さりげなく、
膝の端を使う。
若い猫が騒いでいても、
吾輩は距離を保つ。
叱らない。
羨ましがらない。
ただ、
「楽しそうだな」と思うだけだ。
飼い主が言う。
「最近、渋いよね。」
その言葉に、
吾輩はしっぽを一度だけ揺らした。
渋さとは、
足し算ではなく、
引き算の結果なのだ。
無理をしない。
競わない。
だが、
ここぞというときは譲らない。
お気に入りの場所、
大事な人、
譲れぬものは、
もうよく分かっている。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが、
歳を重ねたこの今が、
いちばん似合っていると知っている。
渋み増し 語らず魅せる 冬の猫