吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― オイスターカフェ 編―

2025年10月24日

吾輩は猫である ― オイスターカフェ 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

このあいだ、飼い主が連れて行ってくれたのは、
港沿いにできた「オイスターカフェ」なる店。
潮の香りに誘われて、吾輩もつい足取りが軽くなった。

店のテラス席からは、
青い海と白いヨットが見える。
人間たちは「生ガキ」「焼きガキ」「オイスタープレート」などと
楽しげに注文している。
吾輩の前にあるのは――
残念ながら水と猫用のクッキーである。

しかし、あの鉄板の上で
カキがじゅうっと音を立てる瞬間、
この世のすべての猫が背筋を伸ばすだろう。
香ばしい匂いにひげが震え、
舌の奥がしびれる。

飼い主は笑って吾輩に言った。
「塩分が強いから、だめだよ」
吾輩は諦めたようにため息をついたが、
その声は波音にかき消された。

やがて夕暮れ。
海面が金色に染まり、
カフェの灯が柔らかくともる。
人も猫も静かにひとときを味わう。
食べられなくても、
この匂いと景色だけで、
十分ごちそうなのだ。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが今夜ばかりは――
潮の風の中で、美食家の気分に浸っている。

潮の香や 食わずともなお 腹満つる


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gonta

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