吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ―猫の靴下 編―

2025年11月15日

吾輩は猫である ―猫の靴下 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

この家には、吾輩の天敵がいる。
――それは“洗濯機”である。
ガタガタと音を立て、
ときどき飼い主の靴下を一枚だけ飲み込むのだ。

ある朝、飼い主が騒いでいた。
「また片方がない!」
どうやら靴下の片割れが行方不明らしい。
吾輩はしらばくれた顔で、
ベッドの下に隠した“宝物”をそっと見た。
ふわふわで、ちょうど噛みごたえがよい。
夜な夜な枕元へ持っていく、吾輩のお気に入りだ。

だが、飼い主が泣きそうな顔で探しているのを見て、
少し胸が痛んだ。
――愛とは、靴下の片方を分け合うことなのかもしれぬ。

その晩、吾輩は靴下をそっとリビングの真ん中に置いた。
翌朝、飼い主が見つけて笑った。
「やっぱり、あなたの仕業ね」
吾輩はごろごろと喉を鳴らした。
叱られもせず、撫でられて終わる。
人間とは、なんと寛大な生き物であろう。

吾輩は猫である。名はまだない。
けれど今日も、靴下ひとつで
人と猫は心を通わせているのだ。

片靴下 君の香りで 春ぬくし


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gonta

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