吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 命日篇 ―

2025年5月30日

吾輩は猫である ― 命日篇 ―

吾輩は猫である。名は、もうここにはない。

けれど今日、誰かがふとカリカリの缶を見つめていた。埃をかぶった首輪も、棚の奥から出てきた。
それはたしかに、吾輩のものだった。

あの日、陽が落ちる前に、吾輩はひとつ大きくあくびをして、眠るようにこの世を離れた。
静かで、穏やかで、まるでいつもの昼寝の続きのようだった。
人間が泣く理由は、少しだけわからなかった。

今日、命日とやららしい。
花がひと輪、水の入った皿、そして「ありがとう」と小さく呟かれた声。
そのすべてが、心地よい。

猫はあの世でも、きっと気まぐれだ。
昼は日なたに、夜は星の間に。
時々こうして戻ってきては、そっと見ている。

呼ばれずとも、飼い主の心に影を落とすことなく、
ただ静かにそこにいるだけでよいのだ。

いぬる猫 名を呼ばずとも ぬくし影

もし、次の季節にまた縁があれば、
吾輩はきっと別の毛並みで、別の声で、君の前に現れるかもしれない。

それまでは、安心して暮らすがよい。
吾輩はどこかで、ちゃんと見ている。

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gonta

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