吾輩は猫である。名はまだない。
けれど、飼い主はときどきこう呼ぶ。
「○○の二世」――どうやらこの家には、
かつて“初代吾輩”がいたらしい。
押入れの奥には、小さな首輪と古い写真。
そこには、自分によく似た猫が写っていた。
まっすぐな目つき、
少し曲がったしっぽ。
吾輩はその姿に、なぜか懐かしさを覚えた。
飼い主が言う。
「この子も、あの子と同じように日なたが好きなんだね。」
吾輩はごろりと寝転び、
その言葉の意味を考えた。
――生まれ変わるとは、
ただ姿を変えて続くことかもしれぬ。
夜、飼い主が写真を見ながら微笑んだ。
「また会えた気がする」
吾輩はそっと隣に寄り添った。
その胸の鼓動が、
まるで昔から知っていた音のように感じられた。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが、この家に吹くあたたかな空気の中で、
確かに“あの命”の続きを生きている。
命継ぐ ぬくもり宿る 春の風