吾輩は猫である。名はまだない。
フランスの諺には、
物を物として呼ぶことの大切さが、
さりげなく込められている。
飾らず、
誇張せず、
期待を背負わせない。
吾輩は思う。
猫を猫と呼ぶとは、
愛さぬことではない。
支配せぬことだ。
人は名を足す。
意味を盛る。
役割を与え、
物語を背負わせる。
だが、
猫は物語を欲しがらない。
猫は猫であり、
それ以上でも以下でもない。
そのままで十分なのだ。
フランス人は言う。
「物は物として扱え」と。
それは冷たさではない。
敬意である。
吾輩が窓辺にいるとき、
理由はない。
意味もない。
ただ、
そこにいる。
それをそのまま受け取れる人のそばで、
吾輩は長く眠る。
吾輩は猫である。名はまだない。
猫を猫と呼ぶ者は、
世界を世界のまま
信じている者だ。
猫は猫
それ以上を
言わぬ智慧