吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 猫のワールドシリーズ 編―

2025年11月9日

吾輩は猫である ― 猫のワールドシリーズ 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

夜更け、飼い主がテレビの前で吠えていた。
「ホームランだ!」「ストライク!」
どうやら“ワールドシリーズ”という戦が行われているらしい。

画面の向こうでは、
白球が風を裂き、歓声が空を揺らす。
選手たちの目は真剣そのもの。
だが吾輩の目には、
あれは巨大な“ネズミ追い”のようにも見える。

飼い主は興奮のあまり、
吾輩の背中をなでながら叫ぶ。
「大谷、やったー!」
吾輩は目を細める。
――あの俊敏さ、きっと猫族の末裔に違いない。

試合は延長戦に入り、
人々の手に汗がにじむころ、
吾輩はあくびをひとつ。
勝ち負けという言葉を、猫は持たぬ。
ただ、風を読み、静かに跳ぶ。
それでじゅうぶんなのだ。

画面が歓喜に包まれ、
飼い主は涙ぐんでいた。
吾輩はその膝の上で、
喉を鳴らしながらこう思った。
人は勝利を求め、
猫は調和を求める。
だがどちらも、生きる喜びのかたちである。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日だけは、
この家のチームの一員として、胸を張ろう。

白球や 夢を追う音 夜に響く


スポンサーリンク

  • この記事を書いた人

gonta

-吾輩は猫である(現代編)