吾輩は猫である。名はまだないが、背筋には自信がある。
ところが近ごろ、人間どもが「猫背を治したい」と騒ぎ出した。
姿勢が悪いと健康に悪い、肩がこる、見た目が老ける――ふむ、やかましい。
そしてついに、飼い主が「カイロプラクティック」に通い始めた。
骨を鳴らされ、姿勢を直され、「あ〜スッキリ!」と帰ってくる。
それは結構だが、猫の名を冠しておきながら、猫の姿勢が悪いという前提には納得がいかぬ。
吾輩は常にしなやかで、美しく丸まる。
獲物を狙うときには低く、堂々と歩くときには高く。
背骨は曲がるのではなく、使いこなすのである。
そもそも「まっすぐが正しい」などというのは、人間の勝手な尺度だ。
柔らかく、丸く、しなる生き方にこそ、長く生きる秘訣がある。
飼い主が「猫も矯正したら楽になるんちゃう?」と冗談を言った。
その瞬間、吾輩はぴんと背を伸ばし、ソファの背もたれに優雅に飛び乗ってみせた。
背筋より 心を伸ばせ 猫の道
猫背は、誇りである。歴史である。芸術である。
人間よ、矯正する前に、まずは自らの“重心”を見つめ直してはどうか。