吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ―年末調整 編―

2025年12月2日

吾輩は猫である ―年末調整 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

十二月のある日、
飼い主がダイニングテーブルいっぱいに書類を広げていた。
「生命保険料控除証明書」「住宅ローン」「扶養」――
人間とは、どうしてこうも複雑な紙を愛するのか。

吾輩はその真ん中に座り、
飼い主の視線を遮るように丸くなった。
「ちょ、ちょっと!そこは源泉徴収票!」
ふむ。だからこそ、守ってやらねばならぬ。

飼い主はため息をつきながら言う。
「年末調整が終わらない……」
吾輩は尻尾をゆっくり左右に振った。
焦って書くと失敗する。
それはトイレの砂かけと同じ理屈である。

ときおり飼い主は
「配偶者控除……?」「社会保険料……?」
などと呟き、書類の迷宮に迷い込んでいた。
吾輩は思った。
人間も猫も、年の瀬になると落ち着かぬものだ。

ようやく提出用の封筒が完成し、
飼い主は「終わったあああ!」と崩れ落ちた。
吾輩はその膝にのり、
“よく頑張った”という意味で喉を鳴らしてやった。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが思う。
年末調整とは、書類の山を越えた者にだけ
一息つく冬のご褒美なのだろう。

紙山を 越えて迎える 冬の灯


スポンサーリンク

  • この記事を書いた人

gonta

-吾輩は猫である(現代編)