吾輩は猫である。名はまだない。
朝の光が、いつもよりやわらかい。
カレンダーが新しくなり、
家の空気も少し改まっている。
どうやら今日は、年始のご挨拶をする日らしい。
飼い主は背筋を伸ばし、
「今年もよろしくお願いします」と
画面越しに何度も頭を下げている。
人間とは、
新しい年になると、
あらためて言葉を整える生き物のようだ。
吾輩はその足元に座り、
静かに様子を見守った。
猫に挨拶の言葉はないが、
姿勢で示すことはできる。
尻尾を巻き、
耳を落ち着かせ、
ただ、そこに居る。
挨拶とは、
何かを約束することではなく、
「これからも共にいます」と
確認し合う行為なのだろう。
飼い主が一息つき、
吾輩を見て微笑んだ。
「今年も一緒に、穏やかに過ごそうね。」
吾輩は喉を鳴らした。
それが吾輩なりのご挨拶である。
外では、
まだ正月の静けさが残っている。
急ぐものは何もない。
始まったばかりの一年に、
そっと礼をして、
今日を迎えればよい。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが、この家で、
この人と迎える新年に、
静かに感謝している。
初頭を そろえて迎う 年の朝