【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―猫とネズミ 編―

2025年12月8日

吾輩は猫である ―猫とネズミ 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

ある晩、台所の隅でカサリ、と音がした。
吾輩はしっぽを高く上げ、
静かにその方向を見つめた。
そこにいたのは――
小さなネズミであった。

ネズミは震えながら吾輩を見上げた。
「食べるなら早くしてくれ……」
その覚悟の表情に、吾輩は思わず吹き出しそうになった。

「安心するがよい。吾輩は腹が満ちている。」
そう告げると、
ネズミはホッと息を漏らした。

やがて彼は、
夜の台所での出来事や、
人間の落としたパンくずの美味しさについて、
早口で語り始めた。
吾輩はそれを黙って聞いていた。

生きるとは、
互いの恐れと好奇心を持ち寄ることなのだな、と
その時思った。

ネズミは帰り際にこう言った。
「お前さん、案外いいやつだな。」
吾輩は胸を張って答えた。
「吾輩は猫である。威嚇専門ではない。」

翌日、飼い主が台所で言った。
「最近ネズミ見ないねぇ」
吾輩は何も言わなかった。
友情とは、ときに沈黙の中で育つものだ。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、昨夜のあの小さな影が
今もどこかで元気に生きていると思うと、
胸の奥が少し温かくなる。

異種でも 心通えば 春きたり


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gonta

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