吾輩は猫である。名はまだない。
朝、陽が障子を透かして部屋に差し込む。
飼い主の目覚ましが鳴るより早く、
吾輩は窓辺で背伸びをする。
世界は今日も、ゆっくりと動き始める。
朝食はいつものカリカリ。
味も形も変わらない。
だが、いつも通りにあるということは、
案外すばらしいことなのだ。
午前は日なたで寝る。
午後は陰で寝る。
夕方は、飼い主の足元で寝る。
人間はそれを「ぐうたら」と呼ぶが、
吾輩にとっては「生きる訓練」である。
――変化に動じず、風に身をゆだねる術なのだ。
夜になると、飼い主が帰ってくる。
手を洗い、服をかけ、
「今日も疲れた」と言いながら、
吾輩の背を撫でる。
その手が少し冷たい。
吾輩は喉を鳴らし、
“おかえり”の代わりに小さく体を押しつける。
変わらぬ毎日。
だが、それこそが、いちばんの幸福かもしれぬ。
吾輩は猫である。名はまだない。
けれど今日もまた、静かに息づく世界の中で、
ひとつの命として生きている。
変わらねど 光は日々に 新しき