吾輩は猫である。名はまだない。
今日、飼い主がスマホを見ながら突然叫んだ。
「ちょっと! 君、ノーベル賞とったらしいよ!」
吾輩は尻尾を立てて驚いた。
――何の賞である? 平和賞か? 医学賞か? それとも“昼寝学賞”か?
どうやら発表によれば、
吾輩の“人間のメンタルを安定させる行動”が
世界に多大なる貢献をしたらしい。
つまり、ひざの上で寝ること、
喉を鳴らすこと、
そっと寄り添うこと――
それらすべてが科学的に証明されたというのだ。
授賞式では、
スウェーデン王室の方々が拍手をしていた。
吾輩は赤いカーペットの上を慎重に歩き、
壇上で小さく「にゃ」とだけ挨拶した。
言葉は少ないほど、真実は伝わるものである。
記者会見では、
「受賞の理由をひとこと」と問われた。
吾輩は思った――
功績とは、大きな発明だけではない。
毎日をそっと支える小さな行いも、
誰かの世界を変えることがあるのだと。
帰ると、飼い主が言った。
「すごいね。でも、いつも通りでいいよ。」
吾輩は膝の上に飛び乗り、
静かに喉を鳴らした。
ノーベル賞より、この場所が尊い。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日、世界が少し優しく見えた。
世界より 膝のぬくもり 吾輩賞