吾輩は猫である。名はまだない。
正月の朝、
飼い主が小さな封筒を手にして笑っていた。
赤くて、つるりとして、
なにやら特別そうである。
「はい、お年玉。」
吾輩は首をかしげた。
封筒は軽く、
振っても音がしない。
――これは食べ物ではない。
中から出てきたのは、
新品の猫じゃらしと、
少し高級そうなおやつ。
「今年も元気でいようね。」
その言葉が、いちばんの中身だった。
吾輩はじゃらしに一瞬だけ反応し、
すぐに興味を失った。
だが、おやつは違う。
ゆっくり味わい、
満足げに舌をしまう。
飼い主は言う。
「猫にお金はいらないもんね。」
その通りである。
猫に必要なのは、
使い道を考える時間ではなく、
使われる時間なのだ。
お年玉とは、
未来への期待を包むものらしい。
ならば吾輩は、
今日も明日も元気に寝て、
ときどき遊び、
長く一緒にいることで応えよう。
吾輩は猫である。名はまだない。
だがこの家では、
封筒よりも、
手渡される時間のほうが価値がある。
お年玉 形はなくて 膝にあり