吾輩は猫である。名はまだない。
今日は大晦日。
外は冷え、家の中はどこか落ち着かぬ。
飼い主は掃除を終え、
こたつに入り、テレビをつけたまま静かにしている。
一年が、そっと終わろうとしているのだ。
吾輩は窓辺に座り、
この一年を思い返してみた。
春、日差しの場所を覚え、
夏、冷たい床を探し、
秋、抜け毛とともに風を感じ、
冬、膝のありがたさを知った。
大きな出来事は少なかったかもしれぬ。
だが、
毎日のご飯、
変わらぬ水、
名前を呼ぶ声。
それらが揃っていたことが、
何よりの出来事だった。
飼い主も一年を振り返っているようだ。
「いろいろあったけど……まあ、なんとかなったな。」
吾輩はその言葉に、静かに同意した。
完璧でなくても、
無事に今日まで来られたなら、それでいい。
除夜の鐘が鳴り始める。
遠くで、ひとつ、またひとつ。
煩悩を払う音だというが、
吾輩には、
時間をやさしく区切る音に聞こえる。
吾輩は飼い主のそばに行き、
丸くなった。
新しい年も、
特別なことはいらぬ。
ただ、同じように朝が来て、
同じように夜が来ればよい。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが、この一年、
確かにここで生きていた。
それだけで、十分なのだ。
鐘ひとつ 丸くなりゆく 年の暮れ